「型破りな発想をするためには、天才でなくても、ビジョンがなくてもいい」(マイケル・デル)

 今では当たり前となったコンピュータの直販システムは、デルコンピュータが確立したものだ。デルコンピュータ創業者のマイケル・デルは、受注生産を基本として顧客に直接コンピュータを販売する「ダイレクト・モデル」を実践した。
 それまで、既存のコンピュータ・メーカーは、卸売業者や販売店を介してコンピュータを販売していた。そのため、販売店の店員は、自分が扱っているコンピュータに関する知識が不十分なまま、顧客に対応するケースが少なくなかった。
 マイケル・デルは、顧客がコンピュータに対する知識を深め、ニーズを多様化させる時代が来ることを予見し、販売プロセスを改善すべきだと考えた。そうして得た結論が、「エンドユーザーに直接販売する」というダイレクト・モデルだったのである。
 ダイレクト・モデル自体は目新しいものではなかったが、あらゆる顧客を対象にダイレクト・モデルに特化したという点が画期的だった。デルコンピュータは顧客のニーズに合わせた製品を提供することで急成長する。また、受注生産を基本とするため、大量の在庫を抱える必要がないという面でも、高い収益性を実現させていった。
 ダイレクト・モデルが揺らいだこともあった。実は、1990年代前半、デルコンピュータは直販だけでなく、小売業者向け市場にも参入していた。当時の小売業者向け市場は年率20%で成長しており、非常に活気づいていたため、デルコンピュータも無視するわけにはいかなかったのである。
 しかし、小売業者向け市場を精査したところ、うなぎ上りの売上に対して、利益はほとんど出ていないことがわかった。そこで、1994年にデルコンピュータは小売業者向け市場から撤退。この決断に対して、当時のメディア報道は批判的な論調ばかりだった。
 小売業者向け市場からの撤退以降、デルコンピュータの財務状態は改善され、業績も向上していった。ダイレクト・モデルに完全に特化することにより、製品開発や顧客対応において、全社的に方向性が統一されたことも大きかった。
 さらに、ダイレクト・モデルの利点を最大化するために、顧客単位のセグメンテーションを重視した。既存企業が行うセグメンテーションが製品単位であるのに対し、デルコンピュータでは顧客単位のセグメンテーションを通して、成長性の高い新たな事業機会を着実に捉えていった。
 こうして1998年、デルコンピュータはアメリカで第1位、全世界でも第2位のコンピュータ・メーカーとなる。

「これまで、私たちが何かやりたいと思うと、他の人たちから『そんなことはできっこないよ』と言われることが多かった。
 だが、これだけ成功できた原因の一端は、私たちの能力だけではなく、物事に対して別の見方をしてみようという姿勢があったおかげだ。私は、成功のチャンスは天性によって決まる部分もあるが、事業であれ、研究テーマであれ、専門分野であれ、何かに熱中するということにもあると考えている。人は学ぶことで、誰もが『あるわけがない』と思っているチャンスを見つけ出し、それを活かすことができる、ということをデルコンピュータは説明している。型破りな発想をするためには、天才でなくても、ビジョンがなくてもいい。大卒である必要さえない。ただ、構想と夢を持っていればいいだけの話だ」(『デルの革命』より)

 目先のブームや世間の批判に流されず、構想を実現する意志がもたらした成功だった。

■参考図書
マイケル・デル『デルの革命』(日経ビジネス人文庫)

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