「ビジネスは単なるゼロサムゲームではない。そのことを自覚できない経営者が増えている」(ハワード・シュルツ)

 世界的なコーヒーショップチェーンであるスターバックスは、四半世紀前、わずか6店舗というアメリカの地方企業に過ぎなかった。1987年、スターバックスのCEOに就任したハワード・シュルツ(現スターバックスコーヒーカンパニー会長兼CEO)は、奇跡の成長を実現していくことになる。
 シュルツは、それまでコーヒー豆の小売にとどまっていたスターバックスを、飲み物としてのコーヒーを提供する業態へと大胆に展開していった。その際、重要なのがコーヒーを作るバリスタの質である。1988年、スターバックスはすべてのパートタイマーに対し、正社員と同程度の健康保険を適用することにした。また、1991年にはパートタイマーを含むすべての「パートナー」(従業員)を対象としたストックオプション制度も導入している。
 シュルツは社員の価値を次のように語っている。

「ビジネスは単なるゼロサムゲームではない。そのことを自覚できない経営者が増えている。社員の利益を図ることはコストが増え利益が減るどころか、経営者が予想もしなかったような大企業に発展するための強力な活性剤になることを自覚する必要がある」(『スターバックス成功物語』より)

 2000年、スターバックスは世界2600店舗、売上20億ドル近くにまで成長していた。シュルツはCEOを退き、会長兼グローバル戦略責任者として新世代の経営陣を見守る立場となる。
 シュルツがCEOを退任した後もスターバックスは成長を続け、2007年には世界1万3000店舗に達する。しかし一方で、サービスの低下が懸念されるようになった。来客数や客単価も減少を見せ始めていた。
 事態を重く見たシュルツは、2008年1月、CEOに復帰する。CEOに復帰したシュルツがそこで目にしたのは、研修不足のバリスタたち、高まる離職率といった、かつてのスターバックスでは考えられないような状況だった。
 2008年2月26日、スターバックスは全米7100店舗を半日だけ一斉に閉鎖するという前代未聞の“改革”を断行する。13万5000人のバリスタを再研修させ、エスプレッソ作りの技術を再構築することが目的だった。
 当然、一斉休業は売上に大きなマイナスとなった。合計で600万ドルという巨額の損失を出すことになったのである。
 また、自動エスプレッソマシンに頼るのをやめ、以前のようにコーヒー豆を店舗で挽くようにした。顧客を取り戻すためには、「コーヒー体験」の質を上げることが何よりも重要だった。
 一方で、業績不振の600店舗を閉店したほか、製造業に範を採ったリーン方式による生産性改善を実施するなど、経営効率化に努めた。ただし、手厚い福利厚生制度は維持されている。2009年にはインスタントコーヒー市場に参入するなど、攻めの経営も忘れなかった。
 一連の取り組みにより、初めて赤字に陥った2008年度を底としてスターバックスはV字回復を果たす。2010年度には、過去最高の107億ドルという利益を出すまでに再生したのである。

■参考図書
ハワード・シュルツ『スターバックス成功物語』(日経BP社)
ハワード・シュルツ『スターバックス再生物語』(徳間書店)

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