「ブランド・ビジネスにおける創造性はマーケティングに優先する」(ベルナール・アルノー)

 ベルナール・アルノー会長兼CEO率いるLVMHグループは、ルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオール、ドン・ペリニヨンといった高級品ブランドを傘下に収めている。それまで「手工業の域」だった高級品ブランド産業は、アルノーの手によって「地球規模」のビジネスになったと評される。
 もともと理工科大学を出て、一族の経営する建設会社を引き継いだアルノーは、高級品ブランドとは無縁の人間だった。ところが1984年、当時34歳のアルノーは、経営難のブサック社を買収する。ブサック社の持つクリスチャン・ディオールというブランドが目当てだった。
 ブサック社買収を皮切りに、アルノーは高級品ブランド産業に進出。1989年にはLVMHを買収し、高級品ブランドの巨大グループに成長する。アルノーがブサック社を買収してからおよそ15年で、総売上高は100億フランから600億フランに、時価総額は150億フランから2800億フランへと急拡大した。
 歴史ある高級品ブランドを手に入れたアルノーは、革新性を追求することで市場を開拓していく。たとえばルイ・ヴィトンについては、プレタポルテへの進出、カラー革やキャンパス地の導入を図った。その際、あくまでも伝統を守りながら創造性を加えることで、ブランド・イメージを守った。
 一方、頑固なまでの伝統も尊重した。買収前のシャトー・ディケムは、ブドウが不出来の際にはワインを出荷しないという伝統があったが、その伝統を認めた。アルノーは買収した企業の伝統と品質への情熱を理解していた。
 単純な採算性やマーケティングだけでは計れない領域への理解は、クリエーターの創造性に対する尊重にもつながっていく。

「ブランド・ビジネスにおける創造性はマーケティングに優先します。経営意識が先行すると満足な成果は得られません。そのために我々は、マーク・ジェイコブス、ジョン・ガリアーノ、アレクサンダー・マックィーンといった強烈な個性を選びました。いずれもモードの改革者であり発明家であり、真の芸術家です。彼らの本業がマーケティングに左右されない、純粋な創作活動であることは言うまでもないでしょう。マーケティングを気にするデザイナーは、いかに才能があっても、ブランドに寄与する作品は作れません。ブランドに革新性をもたらすには、本物のクリエーターが必要なのです」(『ベルナール・アルノー、語る』より)

 アルノーは成功の秘訣を、「独立を維持したファミリー企業の集合体」と述べている。ブランドの価値を守るには、中央集権化ではなく完全な分権化が必要だという。言い換えれば、それだけ信頼できるブランドをいち早く買収することで、アルノーは大きな成功を収めたのである。

■参考図書
ベルナール・アルノー/イヴ・メサロヴィッチ『ベルナール・アルノー、語る』(日経BP社)

Design by http://f-tpl.com